師匠捧ぐ・・・
2/5、自宅の電話が鳴った。
こんな時間に誰だろうと思ったら、彫金の師匠の奥さんからだった。

「お父さんね、昨日亡くなったのよ。いきなりだったのよね。
今日、家に帰ってきたから、よかったら顔見に来てやって・・・」

呆然となった。目の前が真っ暗になった。
去年、手術をして入院していることは知っていた。
喉頭がんで、のどに穴を開けてしまったから、
もうしゃべることは出来ない・・・とも知っていた。
次の月曜日、お見舞いに行こうと思っていた。
そんな矢先だった。

自分が奥さんになんて言って、電話を置いたのか、全然思い出せない。
ただその夜は、自分がなんと不真面目な弟子だったかとか、
最後にお見舞いに行けなかった後悔とか、自分の薄情さとか、
これから教えてもらおうと思っていたこととか、
これまで教えてもらったこととか、
一緒にお蕎麦や冷麦を食べたこととか、
家の前の柿や近所のお寺の桜や、
ベッコウ飴や午後の紅茶のレモンティーや、
師匠の笑い顔や珍しい爪をした指で鏨を持っている手や、
それはもう、色んな感情や思い出がぐるぐるして全然眠れなかった。

次の日、師匠に会いに行った。

「お父さん、お化粧してもらってね、すごい男前になったのよ。」
奥さんが、師匠の顔を見せてくれた。

自分の気持ちがもうどこにあるのか分からなかった私だったけど、
その顔を見たら、一瞬にして落ち着いた。

今まで見てきた師匠の顔のどれよりも、その顔が「穏やか」だったから。

後悔と自責の念でいっぱいだったけれど、それを全部浄化してもらった気がした。
これから先、師匠に教えていただいたことを精一杯生かして彫金をやっていくこと、
前に進めと、背中を押された気がした。
だから、もう私は大丈夫です。

今まで、本当にたくさんのことを教えていただきました。
私の一生の宝物として、大切に使わせていただきます。

有難う御座いました。
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by chio-ringo | 2010-02-08 22:54 |
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