眞杉静江という、誰よりも幸せを求め、名声を求め、愛されることを求めた女の物語。
少女時代から、文学に目覚めるも、その道を容易に進むことの出来なかった台湾での生活。 一度目の結婚から、逃げ出すために日本へ渡る。 その後、女流作家を目指すも、その作品は、なかなか日の目を見ない。 武者小路実篤の愛人。中村地平の恋人。中村義秀の妻。 幸せになるために、人を愛するも、その生活はことごとく終わりを告げ、 人に借金をし、悪評を叩かれ、ぼろぼろになっていく。 この眞杉静江という人を、私は知らなかったが、 宇野千代、志賀直哉、林芙美子、芥川龍之介などの有名な作家の名前が出てくる為、 すごく面白く、リアルに感じられた物語だった。 それにしても、すごく痛々しく、やるせない人生だ。 有名な作家になって見返してやりたいという気持ちは分かる。 けれども、そこまで才能がなくて、気持ちだけが先走る。 それを埋めるように、誰かから愛されれば、結婚さえすれば幸せになれると信じ、 その美貌ゆえに愛せれもする。けれども、その愛の裏側には、 有名な作家の妻になって、認められたい、見返してやりたいという気持ちがある。 自分に実力がなく、自信がないから、他人のそれに頼ろうとする。 悪い人ではなく、本人も悪気はないのだろうが、何かがずれている。 要は、自分の事だけで精一杯の、自己中の、我が儘な女なのだと思う。 この眞杉静江のような人が、もし、私の近くにいたら、ちょっと嫌いなタイプだ。 だけど、一方では、すごく純粋な人だったんだなとも思う。 自分だけが可愛いと思う気持ち、他人に頼りたいという気持ち。 私の中にも、そういう気持ちが全くないかといえば、嘘になる。 でも、人と関係と持つとき、それだけじゃ駄目だ。 宇野千代の言葉。 「誰ひとりとして、男の人といい別れ方をしていないのよ。未練や恨みが残るのは仕方ないとしても、男の人と別れるたびにあの人はみすぼらしくなっていくんですもの。私、見ていられなくって・・・」(本文より) 自分の事を、いつも客観的に見ることは、なかなか難しいことだと思う。 だけど、その幸せ、望み、欲望だけに呑み込まれて、自分の事さえ見失ったら、 それこそ、全てを失ってしまうんではないだろうか。 何が幸せかということは、その人にしか分からないことではあるが、 幸せを求めすぎるがゆえに、失っていく幸せもあるように思う。
by chio-ringo
| 2005-01-27 17:06
| 本
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